シャツを着ないデザイナーのシャツ

シャツを着ないデザイナーのシャツ

服バカの朝

スマホのアラームで目を覚まし、溜息をつきながら体を持ち上げる。

顔を洗い歯を磨き、鏡に映る顔を見て歳をとったものだと呆れて口を濯ぐ。

ラジオアプリの朝のニュースをBGMにしながらコーヒー豆を引きゆっくりと湯を注いでいく

淡々とニュースを読む声の聞き流せない内容。酷いことをする奴がいたもんだ。苦味が脳を目覚めさせクローゼットを開けてみる。

オムニバスのごとくめちゃくちゃな種類の服たちが眼前に広がる。どうしてくれようか。

個人差はあれどもこんなふうにして一日とは始まるのではないか。

私はベテランの服バカ(ここでは愛を持ってこう呼ばせていただく)の日常を限りなくリアルに細かくイメージした。

気だるい朝に選ぶ服。コーディネートが面倒に感じる湿度の日。

でも、服バカだから普通すぎるスタイルに対する嫌悪。要するに服バカが求める普通は一般的ではない。

遊びのある安定感

服バカにとっての普通の服。

それは1日のリズムと抑揚を支えるベースラインのような、機械のように精密で自由なうねりがニクいベテランならではの遊びのある安定感。

一見クセがないけどよく見ると普通じゃない。完成度が高く着心地も普通じゃない。

そう俺たちは大人になったんだ、一般的な人の100人分の服を着て感覚がバグった人にとってのちょうどいい服。

なんとなくちゃんとして見えて余白があり、体を入れるととても気持ちが良くどこへでも自信たっぷりに出かけられる服。

社会とマニアを接続するデバイスシャツをさあ作ろう。

アウトライン

ざっくりとしたデザインを決めていく。襟は迷わず高めのスタンドカラーとした。

私がイメージした服バカは自由で余白のある人物なためタイは締めないキャラクターなのだ。

私はアウトラインからデザインを始める事が多い。ヘアデザインもそうなので私にとって馴染みやすいプロセスだ。

シルエットはワイドかつ締めるところを作り、慎重にバランスを考える。

裾の形はラウンドしながらも締めるところはシャープなラインを心掛ける。

全体を通して余白と緊張感のバランス。胸ポケットはファスナーが極力目立たないようにし、ヨークの形状は私のブランドを見てくれている方ならニヤリとしてもらえるカットにする。

センタータックにし歩きながら緩やかに生地が裾に向かって流れるような動きを。

スタンドカラーの角の丸みと角度もほどよく、そして今回のパターンの特注はサイドのマチがある。

機動性を確保しながらポケットのカットラインと後ろ見頃を接続する重要なパーツである。これは実物をよーく見ていただきたい。

BassLineシャツのトワル

実験実験

アウトライン設計とバランスはざっくりこんなところだ。もっと一つ一つ言いたいところだが全てを言い過ぎるのも野暮というものかもしれない。

あとは素材。市販されているいくつかのシャツを数日着用、洗濯を繰り返して実験してみた。

結果的に私がなぜシャツが嫌いであったかを思い出したのだ。

まずシワ。しっかりとアイロンをかけなくてはならない。

これを楽しんでできる方もいるだろう。一度着たらクリーニングに出す習慣の方もいるだろう。

しかし私はどちらでもない。洗濯機でブン回して干したらそのまま着たいしちゃんと見えてほしいのだ。

そして肌あたり。湿度がとても高い日本の環境下で着るシャツを想定した時に、肌への設置面が少ないほうが快適に感じた。

だいぶ素材は限られてきた。

当初はシャンブレー、ブロードなどから機能的なものを探そうとしており候補も絞っていたが全て却下し、肌あたりと表情と機能など今回の実験をふまえて再検討する必要性が出てきたのだ。

無数のスワッチ

ボディとアクセサリー

日本全国の生地何万種類もの中からついに見つけた、対高温多湿性能を6つも備えた国産カルゼ素材。

接触冷感がありシワになりにくく吸水速乾、UVカットで毛玉になりにくく若干のストレッチ生がある。

触れたらシャリ感がありつつさらさらで肌あたりが心地良い。

採用した生地

2種類のポリエステルとコットンをブレンドし、紡績と同時に強撚する。

二種類の原綿の断面形状を変えることで強撚しても柔らかくなるという特性があります。

強撚とは糸に撚り(より)をかけるもので、その強度を高めたものです。

 

そしてボタン。ど真ん中に配置させるのだからとても重要。

HLVTCにとって副資材はアクセサリーなのです。

いつも黒だけを作るのだが今回は涼しげなブルーのシャツも着たくなったため2種類のボタンを用意しました。

ボタンにも色々と種類があるのですがだいたいファストファッションや大量生産品はプラスチック素材が使われる事が多いです。いっぱいあるし安いからね。

まず黒シャツは本水牛にしました。大きさは15mm。なかなか大きめ。その名の通り水牛の角を加工した丈夫で光沢感のある高級品です。

天然のものなので1つ1つ表情があります。

それらを厳選し、特に黒い個体を集めて集めて量産分用意しました。

青シャツはメタルボタンを採用。だいたい青いシャツは白いボタンが使用されます

柔らかな生地に優しい色、ソリッドなボタン。

これはかっこいい以外ない。

水牛ボタン メタルボタン

面白味のあるシンプル

縫製は私の生まれ故郷である岩手県にてご夫婦で縫製工場を営んでいらっしゃるベテランの縫製師の方に直接縫っていただいております。

運針数は、ボタンの付け方は、など綿密に話し合いながら決めていきます。

日常的にラフにサラっと羽織れるシャツ。

遊びのある安定感を出すためにここまで作り込みました。

シンプルなものにこそ実力が出る。他の業界でもそうであることが多いかもしれません。

美容師であればシンプルかつ今年っぽいボブを切れと言われるようなもの。

小細工が効かないのです。

現在のHLVTCが贈るBass Line。

機能とクオリティに拘った面白みのあるシンプルが仕上がりました。

発表はもう少しだけ先ですが、皆様の目で、そして体感でご判断いただけたら幸いです。

関連の動画もありますのでぜひご覧くださいませ。

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