究極のダウンジャケットを作るために

究極のダウンジャケットを作るために

出会いと決心

ようやく、HLVTCのダウンジャケットのサンプルが仕上がりそうである。
昨年の12月に私の生まれ故郷である岩手県宮古市のダウン専門工場のクラスターさんとの出会いが全ての始まりになるのでこちらを観ていただけたら嬉しいです。

環境がもたらす防寒意識

私の故郷である岩手県宮古市は本州最東端。 初日の出が本州で最も早く見える海が綺麗な場所である。

冬は東京に比べてとても寒く、高い山に囲まれているため冬にはヤマセ(山背)という冷たい風が吹く。

私が学生の頃はマフラーを鼻の上までぐるぐるに巻き、凍えながら自転車で通っており、 真冬の実家の車は発車15分前にはエンジンとエアコンをかけておき、凍ったフロントガラスにポットのお湯をかけて溶かす。

雪合戦なんてしたら弾切れになることはまず無く、沢山雪が降った翌日の朝は雪掻きから1日が始まり同級生がスコップを担いで応援にくる。

住んでいる地域によって雪が深すぎると学校側から登校禁止令が出て子供は喜び親は絶望する。そんな環境です。

この街でダウンジャケットの専門工場であるクラスターさんは長年、南極観測隊のダウンウェアや様々なブランドのOEM生産をしてきた歴史があります。

工場オリジナルブランドであるhayachine madeは2022年にグッドデザイン賞を獲得し、様々なブランドや企業とコラボレーションを果たしている。

そんな中、ミュージシャンであり同郷で、さらに言えば高校の後輩でもある高岩遼君とのコラボ企画でHLVTCが協力して制作したモデル「NIGHT RIDER」を販売し成功を納めた。

HLVTCが協力して制作したダウンジャケット「NIGHT RIDER」

究極のダウンジャケットを作るために

そうして関係性が続きながらHLVTCはこの一年間、デザインと素材や構造などについて考え、調べぬいた。 どうせなら初っ端から最高のものが作りたい。一切の妥協を許さずに自分自身が完全に納得できるものでなければリリースしたくない。

ダイニーマレザーの時にも、ついでにいうといつも考えていることだが何度も作れるものではないかもしれないからだ。 まずは今企画の共通素材から説明していきたいと思う。

表面素材として私が重視したのは防水、透湿性、軽量性、そしてタフネス。 ここまでワガママだと逆に選択肢は自然と狭まる。改めて調べ直したが当初考えていた素材に戻ってきた。

採用したのは雪山の登山や山岳スキー用に防水性と透湿性を高次元で両立させたシェルとしてイギリスのBHA社が開発したeVent fabric. その中でも軽量性と透湿性に定評のあるものを選びました。



出典:https://www.eventfabrics.com

数10億個の微細な隙間を持つePTFEメンブレンをラミネートした独自技術のDirect Ventingテクノロジー をもち、耐水圧20000mm.、透湿性は30000g/㎡. 24Hと圧倒的。

よく比較されるゴアテックスとの違いは、ePTFEにコーティングがされていない点です。 この性質も手伝って透湿性の初期値がゴアテックスよりも高い数値を叩き出しており、ジャケット内をドライに保つ性能に優れており軽量。余談ですが、何かを褒める時に何かを貶すのはあまり気持ちが良くない。ゴアテックスもとても好きな素材です。適材適所。

ちなみにePTFEとは3レイヤー素材の真ん中にある素材のことです。これを使用するかPU素材を用いるかで大きく異なります(なので3レイヤーはePTFE系とPU系に分かれるってこと)が、このあたりは長くなるためこの場では割愛させていただきます。

防水、鬼の透湿性、軽量、圧倒的なスペックであると判断し表地はこれに決めました。

見えない箇所にも最高級を

そしてダウン。あまり種類については知られていないかもしれませんが、 ダウンジャケットの種類は大きく分けるとグース(ガチョウ)かダック(アヒル)の2種類。

グースの方が身体が大きいぶん一つ一つの羽毛も大きく高品質であるとされています。 そしてその中でも、寒さの厳しい地域ほど良質な羽毛を持っているとされています。

羽毛を多く集めると大きな空気の層→断熱層が生まれ、これをデッドエアーと呼びます。 これが多いほど体温を逃さず暖かさが保たれるのです。保温力のあるタンブラーをイメージすると近いですね。

以上のことから、羽毛が大きなグース、さらに寒い地域の…となっていき高品質になっていくのです。 より高品質な羽毛を採用したい私はクラスター社長の小林さんに相談し、とにかく質がいいものを扱う会社さんはないかと聞いた際に教えていただいた羽毛専業のメーカーさんが 河田フェザーさんでした。

出典:https://kwd.jp

「羽毛の品質を極める」を会社の理念としているその職人気質な姿勢に共感し、取引を決めました。羽毛へのこだわり をご覧ください

相談した結果私が選んだものはハンガリー産のシルバーグースでした。 近代手法を用い厳しい管理のもと、大自然の中の農場で飼育されたグースです。

彼らは広大な草原の中を思いのままに跳び回り、広々とした湖で自由に泳ぎ 自然の中でのびのびと自由に健康管理され育てられています。

ハンガリー南部地方は大変肥沃な土地で、家畜の飼料用の穀物を含め広大な穀物畑が地平線まで続いています。

しかしその自然は厳しく、昼と夜の寒暖差の激しい草原地帯で生きていかなければなりません。

この豊かな土地と恵まれた環境と厳しい気候条件の地でグース飼育に専門化した農場で管理飼育され、 十二分な餌を与えられたシルバーグースの羽毛は自らの身を守るため十分に発達し強く優れたものになっていきます。

またハンガリーシルバーグースは生命力が強く体が非常に大きいため、 その羽毛は非常に丈夫で、ダウンボールが大きく嵩高性に優れ保温力に富んだすばらしい品質となります。

フィルパワーにすると800fp以上の数値をもち、ダウンのかさもかなりふっくらとしていて豊富なデッドエアーで体温を守る効果が期待できます。高級な羽毛布団にも使われる素材です。

体に触れるのは結局

そして裏地。 ここまで贅沢に選んできましたので、肩を並べるにふさわしいものを。

袖滑りが良く艶感があり、そして軽量であることが大前提。 薄くてさらに強度もあるものでなくてはならない。

生地商社さんに赴き数千のサンプルを見て触っても納得いくものがなく、かなり難航。 悪くないものは多い。むしろいいかもしれない。ただ私の性格上、「かもしれない」程度では進行できない。これしかないと感じたい。

結果新規で取引させていただいく会社さんのオリジナル製品となりました。 日本における合繊の聖地である福井県の第一織物さん。

担当になっていただいた方にこちらの要望と想いを伝え、それに見合ったサンプルを見せていただいたなかでようやくイメージ通りの素材と出会いました。その名もDICROS DNA Light。

DICROS DNA Light

出典:https://www.dicros.co.jp/textile-products/dna/

極細の糸を張力をかけず隙間なく綿密に織り上げた高密度タフタで気密性を保持し続ける効果があります。 しなやかかつハリのある素材で袖滑りもよく、見つけた瞬間心の中でシャウトしました。

ちなみに担当さん曰く裏地として使われるのは初めてだそうです。鬼贅沢。

最後のシメにポケット内部のフリース素材。これは元々決めていた帝人フロンティアの素材OCTA。

出典:https://www2.teijin-frontier.com/product/post/22/

穴の空いた中空糸に、8本の突起を放射線状に配列したタコ足型断面のポリエステル繊維。従来の中空糸を超える、吸汗速乾・軽量・遮熱/断熱・嵩高など様々な機能を併せ持ちます。

まあざっくりこんな感じ。今回はデザインの話をする隙間がなくなってしまいましたのでダウンジャケットはブログ二部作にします。

高級素材ばかりの料理が美味しいとは限らない。調理法と確かな技術にスパイスのようなセンスと少しの狂気を添えて。 次回はデザインに触れていきます。

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