前回のブログ では、最高のダウンジャケットを作るための背景や素材について長々と綴ってきました。
素材は揃ったので今回はデザインについて解説してみたいと思います。
YoutubeもUPしているので併せてご覧ください!
究極の国産ダウンジャケット、爆誕
敵陣視察
まずは市場調査から入った。世間一般に普及しやすくクオリティも高いアウトドアブランドに代表されるものたちを調査。
さすがの仕上がりと背景にある厳しい環境を考慮した安心感と着心地の良さ、油断すると毎日着てしまうだろう。
実質剛健。それでいて街でも着られるデザインが最近では多い。
そしてスペックを考慮すると安価である。これから私のデザインについて話すが正直、これらのデザインがとても好みであればこっちを選ぶのを勧める。
そしてデザイナーズ。当たり前であるが趣向を凝らした様々な形状がある。
新進気鋭のデザイナーが作るもの、ベテランデザイナーの作るもの、それぞれの魅力がありクオリティも様々だ。 過激なボリュームのものもあり目に楽しい。
アウトドアブランドは環境からどう守るかを考え、デザイナーズはどう見せたいかに焦点が置かれやすいのでまずは想定している環境と目的が違う。
一旦調査を終え、それらがあるこの世の中において新しく生み出す意味と意義を再度考える。
必要が無いと判断すれば私は作る道を選ばない。 かっこつけている訳ではなく、それをするほど潤沢な時間と余裕は私には無い。
アイデアとリフレクション。私のアイデアの練り方は歩きながら思考を巡らせることが多い。
理由はよくわからない。デスクに向かうのはそれを目の前に下ろしている作業の時だ。
机に向かいながら何かができた試しがない。学生の時、この特性に気がつけたらもう少しマシな成績であったかもしれない。
自分の経験を掘り下げ思考を巡らせる中で、別々の場所に格納してあったアイデアの欠片たちが一筋の細く強いピアノ線のような光で繋がった。
いける。私ならできる。
序盤で1型だけでは収まらなそうだったので2型に分けることにしました。 ショートとミディアム。
HLVTCのボトムとの相性なども加味して選択肢があることが望ましいと判断したからです。
素材と縫製は間違いないのだ。これでもし印象がイマイチなら私のデザインに問題があることになる。
優秀なデザイナーとは最も粗利がとれるデザイナーであると聞く。 今回のコストと目指す価格的に私はとても優秀とは言えなさそうだ。慎重かつ大胆に進行していく。
可変性のあるショートダウン
様々なボトムとも相性がいい丈。昨今のワイドやフレアにも相性がよく、そしてインナーを長くするとサルエルもスリムといける、そんなショート丈が欲しい。
大枠のシルエットを決める。 そして我々東洋人の骨格と体型をそこに置く。理想的なシルエットのためにボリュームを出すところと削るところが必要でありその角度や起伏を作る。
長年美容師をやってきた特性だと感じるがこの形成がとても得意だ。
余談であるが頭の形がフラットな我々の人種においてメリハリのあるヘアスタイルを作るには一般的なセオリーから外れた技法を用いる事が多々あり、それに批判的な者も多い。
私は結果を良くするためであればどんな手段も使いセオリーも無視する。
設計図の美しさなど仕上がりの美しさに比べたらどうでもいい。 ボリュームのコントロールをしながら、さらにカッティングラインを決めていき、可変性のあるデザインを採用した。
ダブルフロントでアクセサリーのようなエクセラファスナーを見せてもいいしベルクロで閉じて隠しても良い。 フードが欲しい時もいらない時もあるので収納型ではなくあえてどちらも採用し取り外せるようにした。
デザインの卵はこのような形。
ラフスケッチもいいところだがまずはここから。
基本的にHLVTCの服は着るだけで着用者のプロポーションが良くなるようになって欲しい。
腕は長く見せたいし肩がスクエアに張るほどのボリュームは要らない。それをもとにサンプルの前のトワルを製作する。
仮の布でボリューム感、シルエット、全てを確認しここに修正を入れていく。
これらを全て決断して修正したデータを工場さんに渡しサンプルを進行してもらう。サンプルが仕上がるまではいつも楽しみと不安が入り混じっているものだ。
対極寒地用服型決戦兵器
単純に、極寒地用の上着には長さがマストである。
そして、HLVTCのボトムとも相性がよくサルエルでもスリムでもなんでもいけるレングスのものがいい。
以前作った、3D Ergonomic coat を寒冷地仕様にしてみよう。
手を入れるだけで開閉する胸元のマグネットポケットと大容量の腰ポケット、そして人体工学に基づいたカッティングラインとダイニーマの切り替えを入れてアップデートしていく。
ラフスケッチはこのようになる。
ここからパタンナーと話し合い、シルエットなどを伝えていく。
肩のボリュームは削り、通常テーパード形状が多い袖口にいくに従ってむしろ少し広がる仕様に。
そして袖の前振りは強調しながらインパクトを出す。
フードにも充分なボリュームを出し、被るだけでヘッドギアになるような構造に。
縫製担当の方が4日がかりで仕上げたトワル(サンプル前の仮サンプル)が完成した。
写真では伝わりづらいが、このままではファスナーが干渉しすぎて胸ポケットが小さくなってしまうので調整する。
その他シルエットやカッティングラインを微調整して指示書と仕様書を製作。 工場さんは甚だ迷惑な話であるがパーツにより1グラム単位での羽毛の量調整を行っていく。
安定の問題発生
サンプルを製作している途中にも、クラスター社長の小林さんや縫製担当の方から何度も連絡をいただいた。
確認をしながら丁寧に進行してくださり心からお礼を言いたいです。
通常、洋服というものはパーツごとに担当が分かれており効率よく生産されていく。例えば、腕のパーツ担当、襟のパーツ担当などなど。箇所によって使うべきミシンも違うのでこれが一般的である。
しかし今回のHLVTCのダウンジャケットにはそれが通用しないようで、丸縫い(一人の職人さんが全てを担当する)でしか製作できないとのこと。
伝わりにくいかもしれないがこれはなかなかの事件であり(これまで何度かこういうことはありましたが)縫製単価が段違いに高額になる。
理由としてはシンプルで、通常のダウンジャケットの倍以上のパーツがあり余りにも複雑なのでそうせざるおえないとのこと。
そして、「これは量産品じゃないよ」ともご指摘いただく。 ほぼ一点物の衣装のような手間暇。
構造と縫い方について何度もやりとりさせていただきながら、縫製時間にしてショート一着で丸4日、ミディアムは約1週間(‼︎)かかりようやく完成しました。
サンプル完成
まずはショートを。 ニヤニヤが止まらない、感動すらする素晴らしい仕上がりである。感傷に浸らず説明に入ります。
切り替えやボリューム調整もほぼイメージ通り。製品版はそれらを若干調整して完成となる。
冬にポケットに手を入れたら暖かくなって欲しいので腰ポケットの裏地にはOctaを。
基本的な手荷物は全てジャケットに入れられるように内ポケット合わせて6つを配置。
袖口内側にはCORDURAのリブを用いて冷たい風の侵入を防ぎ、サイドは脇下まで大きく開くようにファスナーを取り付けた。
シルエットの変化、ベンチレーション、レイヤードの可能性全ての効果が期待できる。
ダブルフロントのハイネック部分を開くと大きな襟になり小顔効果もある。
フードが邪魔なら外せる。 もちろん寒ければつけたまま。
このスペック、このシルエットとデザイン。 どこに出しても誇れるものが仕上がった。
そしてミディアム。
壮観である。私はデザイナーをしているが生粋の服バカでもあるためこの凄みがよくわかる。
またしても火力MAXのアウターをこの世界に生み出せた。
アームホールをもう少し広げて袖部分ダイニーマの箇所含め再調整、袖口ベルクロ部分とフード付け根のパーツ変更をする予定であるがほぼ完璧。
工場さんにはこれだけ複雑な服をここまでエラーなく進行していただき感謝するとともに、その高い技術力に感動しております。
完全受注生産。タグにはロットナンバーも記載し、あなただけの番号の服が届きます。
実物を体感して欲しい。 写真とテキストで伝えられるのはここまで。近々YouTubeでも動画を出すが、体感したらもうほとんど私が話すことはない。伝わる自信がある。
というよりHLVTCの服はそもそも写真映えではなく着ないと伝わらないものが多い。
奇しくも、オンライン販売がメインでありながら商材として不向きである。
展示会でも見るだけの方もわりと多い。 そこで声を大にして言いたい。 頼む着てくれ。
じゃないとここまで苦労して作ったものの30%ほどしか伝わらないのだ。
だからPOPUPをなるべく開催している。
店舗が無いためそのタイミングでしか皆さまに体感してもらえない。安いものではないのは自覚していますが、渾身の一着なので遠慮なく体感しに来てほしいです。
このダウンジャケットの受注を中心としたPOPUPを東京は2023年10/21,22、大阪は10/28,29に開催いたします!
詳細はinstagramやyoutubeで随時お知らせしますので確認していただけたら幸いです。
それでは、会場でお会いましょう。
HLVTC POPUP詳細
東京
【開催日】
2023年10/21,22
【場所】
〒153-0061 東京都目黒区中目黒2丁目5−22 ジョイフル栄光マンション 1F
大阪
【開催日】
2023年10/28、29
【場所】
〒542-0081 大阪府大阪市中央区南船場4丁目6−3 田口ビル 2F OBJECT