相対的普通
「普通なんて嫌だ」――私の根幹には反骨精神がある。
枠にはまりたくないという考えに囚われ、不自由なようにも思えるが、この精神は父の教えに根ざしている。
私が小学生の頃、マウンテンバイクが流行し、父にそれを欲しいと懇願した時のことを今でもよく覚えている。
「人と同じじゃ面白くねぇだろ。それが欲しい理由ならダメだ」と父は言った。
普段はゆるゆるとしている父が、時折放つ芯を食った言葉。
それは私の心に深く刻まれ、忘れられないものとなった。
父自身はその言葉を覚えていないだろうが。
自分がどう思うか、何がしたいのか、なぜそう考えるのか。自分軸で物事を考え、良し悪しも自分で判断する。その責任も自らが負う。
おかげで、自分が何をしたくてどうなりたいのかについて、迷うことは一度もなかった。
発見
2022年の年末、実家に帰った時、久しぶりに父に会った。
HLVTCの服を着せてみたところ、私自身よりも似合っていて、なんだか面白く感じたのでYouTubeの撮影もした。時間があればぜひチェックしてほしい。
機能美と新しい日々のスタンダード
父の服装はいつも同じ。私が知る限りずっと同じ服装だ。
ワンピースのロロノア・ゾロの服装が最も近いかもしれない。
白い肌着、ベージュの腹巻き、グレーのスラックスに雪駄。
久しぶりに会った父は変形性膝関節症になり、少し歩くと痛みを訴えていた。
撮影のためにHLVTCのサルエルパンツを履いてもらったが、開脚パターンのためもあり履くのに苦労していたし膝はテーピングをしている。
少しの切なさと思考が巡る。
時間の振り子はただ刻々と時を刻み続ける。人体の機能は低下していく。私も、これを読んでくれているあなたも。
機能的な服とはスペックが高いのも大切だが、弱った体でもかっこよくいられる、支える意味での機能もテックファッションと言えるのではないか。
彼のような人も着られる服を作りたいと思ったのだ。
父がいつも履いていたタックの入ったグレーのスラックス。
それは彼にとってのスタンダードそのものだ。息子である私が彼のスタンダードを編集してみよう
HLVTCのBass Lineとして。
ふさわしい生地とデザイン
生地は最初から決めていた。
HD Dropcrotch Cargo Trousersと同じ、高密度で2wayストレッチ、撥水加工されていながら涼しげなシャリ感があり、シワにもなりにくい生地。
苦労して探し抜いたものであり、定番にしていきたいと考えている。
この素材のパンツをよく履いているが足捌きもよく高温多湿な環境でもストレスになりづらい。
長時間の歩行実験や長時間のフライトでも試したが間違いない機能性なのだ。
デザインは2タックでゆとりのあるワタリから美しいテーパードをかけて落ちていくようにした。
様々なシューズとの相性やトップスとの合わせやすさなども考慮する。
裾を何回か捲り上げてブーツを合わせても決まる仕様にする。
サイドポケットの後ろにファスナー付きチェンジポケットを配置し、このゆとりのあるフロントを利用する。
バックポケットにはフラップを作りボタンで留め、ヒップダーツをバイアスに配置。
長めのドローコードがデザインとなり、ウエストはゴム仕様にして様々な体型へフィットさせる。
パターンと縫製
今回はパターンが最も重要なファクターだ。
パタンナーと話し合いながら丁寧にシルエットを決めていく。
股上にゆとりがありあらゆる体系にフィットさせるがここで重要なのはいなたくなりがちなスラックスをモードでテクニカルな服にもさせること。履くことで半ば強制的に。
足の形を包み込んで覆うシルエット補正パンツを企画した。 トワルはこんな感じ。
あとはウエストのドローコードを選ぶ。数千種類の中から絞り込み、最終的に6種類を選定。さらにベストなものを探し出す。
完成への道
やれることは全てやり尽くした。
美しいシルエットと快適な素材。見た目にはクセがなさそうだが、よく見ると随所にこだわりが見える服。
文章を書いていたら実物が届いた。素晴らしい仕上がりだ。
取り急ぎこのブログを見ていただいている皆様に披露しよう。
ストレッチ素材の縫製はとても難しい。それを1針入魂とばかりに仕上げていただいた。このバックポケットの美しいステッチからも伝わると思う。
企画から製品化まで一年半ほどかかってしまった
これもまた、実物を体感しないと伝わりにくいパンツであろう。
オンライン販売中心の私にとってそれは致命的なことだが、今まで何度も同じことを反省してきた。
それでも私の、いや私たちのベーシックを早く実物で見ていただき、体感してほしいと強く願っている。